いわゆる「大阪ミナミ通り魔殺人事件」 | 出典 | ||
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事件発生日 | 2012年6月10日 | 一審判決 | |
被告人/受刑者 | 礒飛京三(いそひきょうぞう) | 読12.6.11夕 | |
年齢 | 逮捕時(12.6.10) 36歳 | 読12.6.11夕 | |
事案の概要 | 白昼の大阪・ミナミの繁華街において、無差別に通行人2名が包丁で殺害された事件。駆けつけた警察官が被害者の1人に馬乗りになって刺している男を見つけ、現行犯逮捕した。男は覚せい剤の使用又は所持による累犯前科3犯を有し、本件犯行当時覚せい剤中毒後遺症の状態にあったとされた。裁判では責任能力および量刑が争点となった。 | 読12.6.11夕 最高裁判決 |
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第一審 | 裁判年月日 | 2015(平27)年6月26日 | 裁判所ウェブサイト |
裁判所名・部 | 大阪地方裁判所 第4刑事部 | ||
事件番号 | 平成24(わ)5639 | ||
量刑 | 死刑 | ||
裁判官 | 石川恭司 岩﨑邦生 小菅哲聖 | ||
判示事項 の要旨 |
白昼の繁華街において、無差別に通行人2名を包丁で殺害した事案につき、①心神耗弱の可能性があったとする弁護人の主張を排斥し、完全責任能力を認め、②裁判員法67条は死刑選択に裁判体全員の一致を求めていない点で憲法31条、18条に反する旨の弁護人の主張を排斥した上、③無差別殺人の罪質自体、非常に悪質なものといわざるを得ず、犯行態様が冷酷、執ようで残虐なものであり、重大かつ深刻な被害結果を生じさせた上、動機に酌むべき点がないこと等からすれば、被告人の刑事責任は極めて重大で、2名を殺害した殺人の中でも最も重い部類に当たると評価すべきであり、罪刑の均衡の観点等からみても死刑の選択はやむを得ないとして、死刑を言い渡した事例 | ||
控訴審 | 裁判年月日 | 2017(平29)年3月9日 | 裁判所ウェブサイト |
裁判所名・部 | 大阪高等裁判所 第3刑事部 | ||
事件番号 | 平成27(う)1006号 | ||
結果 | 破棄自判 | ||
裁判官 | 中川博之 畑山靖 安西二郎 | ||
裁判要旨 | 被告人を死刑に処した原判決の量刑判断のうち、計画性が低いことは量刑上特に重視すべきとはいえないとの点及び幻聴の影響を被告人に特に有利に評価することはできないとしている点はいずれも不合理であって是認できず、犯行の計画性が低い上に精神障害の影響が否定されず、殺傷された被害者が2名で、それ以外に人的被害が生じていない本件においては、被告人を死刑に処することがやむを得ないとはいえない。 | ||
上告審 | 裁判年月日 | 2019(令1)年12月2日 | 裁判所ウェブサイト |
法廷名 | 最高裁判所第一小法廷 | ||
事件番号 | 平成29(あ)621 | ||
裁判種別 | 判決 | ||
結果 | 棄却 | ||
裁判官 | 小池裕 池上政幸 木澤克之 山口厚 深山卓也 | ||
判示事項 | 被告人を死刑に処した裁判員裁判による第一審判決を量刑不当として破棄し無期懲役に処した原判決の刑の量定が維持された事例 | ||
備考 | 白昼の大阪・ミナミの繁華街において、無差別に通行人2名が包丁で殺害された事件。駆けつけた警察官が、被害者の1人に馬乗りになって刺している男を見つけ、現行犯逮捕した(読12.6.11夕)。
逮捕された礒飛受刑者は、19歳頃から覚せい剤を使用し始め、覚せい剤の使用又は所持による累犯前科3犯があった。本件犯行の17日前の2012年5月24日に覚せい剤取締法違反罪により服役していた新潟刑務所を満期出所した。栃木の薬物依存者の社会復帰を支援する民間団体の施設に入所したが、そこでの扱いを不満に思い、自ら出所。兄に見捨てられ、大阪で紹介された仕事もろくなものではなかったという思いから将来に強い不安を抱き、自殺をしたい気持ちになり、本件犯行の10分前に包丁を購入。しかし、自殺することもできず自暴自棄となり、覚せい剤中毒後遺症の「刺せ刺せ」という連続的に聞こえる幻聴に従ってしまおうと考え、白昼の繁華街において1人目の被害者(当時42歳)に背後から突進して包丁を突き刺した上、倒れた同人に馬乗りになって包丁を何回も突き刺し、その後、自転車を押しながら逃げようとしていた2人目の被害者(当時66歳)の背後から突進して包丁を突き刺した上、倒れた同人に包丁を何回も突き刺し、さらに、1人目の被害者が動いたことからその場に向かい同人に包丁を突き刺し、両名を殺害した。 検察側が起訴前に精神鑑定を実施したが、起訴後に鑑定医が死亡。検察側が再鑑定を求め、裁判所が選任した医師が改めて鑑定を実施した(毎15.5.25大阪夕)。 公判では、礒飛受刑者は「取り返しのつかないことをした」と起訴内容を認め、遺族らに向かって謝罪(毎15.5.25大阪夕)。 控訴審において、弁護側は、(1)訴訟手続の法令違反(裁判員法の憲法違反など)、(2)事実誤認(原審が二つのうち一方の鑑定を採用せず完全責任能力を肯定した原判決には事実誤認がある)、(3)量刑不当、を主張。判決は(1)(2)いずれも退け、一審で採用された精神鑑定を肯定したうえで、「原判決の犯情事実に関する量刑判断のうち、計画性が低いことは量刑上特に重視すべきとはいえないとの点及び幻聴の影響を被告人に特に有利に評価することはできないとしている点はいずれも不合理であって是認できず、動機原因についても、基本的には原判示のとおり身勝手で自己中心的であると評価されるものの、酌むべき点が全くないとまではいい切れないと認められる。そして、犯行の計画性が低い上に精神障害の影響が否定されず、殺傷された被害者が2名で、それ以外に人的被害が生じていない点を考慮すると、本件において被告人を死刑に処することがやむを得ないということはできず、被告人に対しては無期懲役刑を言い渡すべきものと判断される」として原審を破棄、無期懲役を言い渡した。 これに対し、被害者遺族らが大阪高検に対し、最高裁に上告するよう申し入れした(読17.3.14大阪夕)。最高裁は、「無差別殺人であっても、事案により、被害結果、特に死傷者の数が異なるほか、動機・経緯,計画性の有無・程度、犯行態様、犯行遂行の意思の強固さは様々であり、これらを総合して認められる生命侵害の危険性の程度や生命軽視の度合いも異なることから、非難の程度も事案ごとに異なる」と述べ、本件は衝動的な犯行であったことがうかがわれ、無差別殺人遂行の意思が極めて強固であったとも認めらず、被告人の生命軽視の度合いが甚だしく顕著であったとまではいえないとして、控訴審判決を支持した。 |