平成30年7月26日(木)法務大臣臨時記者会見の概要
本日,6名の死刑を執行しました。
裁判の確定順で名前を申し上げますと,
○ 旧姓・岡﨑(おかざき)
宮前 一明(みやまえ・かずあき)
○ 横山 真人(よこやま・まさと)
○ 端本 悟 (はしもと・さとる)
○ 旧姓・林(はやし)
小池 泰男(こいけ・やすお)
○ 豊田 亨 (とよだ・とおる)
○ 廣瀬 健一(ひろせ・けんいち)
の6名です。
犯罪事実の概要等については,別途お配りした資料のとおりです。
関わった事件はそれぞれ異なりますが,これらの犯行において,オウム真理教に所属し,幹部として活動するなどしていた,岡﨑,横山,端本,林,豊田,廣瀬の6名は,教団の教祖であった麻原彰晃こと松本智津夫の下,他の教団幹部らと共謀するなどして,それぞれの立場で,与えられた役割を担いつつ犯行に及びました。
6名について,それぞれ,関与した事件の概要も含めて申し上げます。
1 岡﨑は,昭和61年に教団に出家して,出版部門の営業責任者などをするとともに,信徒の中で2番目の「解脱者」として扱われ,教団の幹部の地位にいました。
岡﨑は,松本の指示の下,他の教団幹部らと共謀して,
○ 平成元年2月上旬頃,教団からの脱会の意思を表明していた信者を,頸部にロープを巻いて絞め付けるなどして殺害し,
○ また,平成元年11月,教団の被害者の会を支援する弁護士のほか,その弁護士の妻や1歳2か月の子供までをも,頸部を絞め付けるなどして殺害しました(弁護士一家殺害事件)。
2 横山は,平成元年に教団に出家して,教団における国の行政組織を模倣した省庁制の下では,科学技術省において,次官として活動していました。
そして,横山は,松本の指示の下,他の教団幹部らと共謀して,
○ 平成6年6月下旬頃から平成7年3月頃までの間に,ロシア製自動小銃を模倣した自動小銃約1000丁を製造しようと企て,部品多数を製作するなどしたほか,平成6年12月頃から平成7年1月までの間に,小銃1丁を製造し,
○ また,平成7年3月,間近に迫った教団に対する強制捜査を阻止するため,東京都心部を大混乱に陥れようと企て,地下鉄電車内等にサリンを発散させることとし,指揮,総合調整,サリン製造,サリン発散,運転手といった綿密な役割分担をし,組織的・計画的に犯行に及ぶなかで,本人は,サリンの発散という役割を担い,12名の乗客や駅員を殺害し,また,14名にサリン中毒症の傷害を負わせました(地下鉄サリン事件)。
3 端本については,昭和63年に教団に出家し,松本の身辺警護を担当するなどしていました。
そして,端本は,松本の指示の下,他の教団幹部らと共謀して,
○ 平成元年11月,弁護士一家殺害事件に及び,弁護士のほか,その弁護士の妻や1歳2か月の子供までをも,頸部を絞め付けるなどして殺害しました。(弁護士一家殺害事件)
○ また,平成5年11月頃から平成6年12月下旬頃までの間に,化学兵器であるサリンを生成し,これを発散させて,不特定多数の者を殺害する目的で,教団施設において,サリンプラントをほぼ完成させ,作動させるなどして,サリンの生成を企て,
○ また,平成6年6月,敵対視していた裁判官の宿舎を標的としてサリンを発散させ,付近の住民である7名を殺害し,また,4名にサリン中毒症の傷害を負わせました(松本サリン事件)。
4 林については,昭和63年に教団に出家し,教団の科学技術省において,次官として活動していました。
林は,
○ 松本サリン事件において,サリンを発散させるための車両の製造等を担当して幇助し,
○ 松本の指示の下,他の教団幹部らと共謀して,平成7年3月,先に申し上げたとおり,組織的・計画的に地下鉄サリン事件に及ぶなかで,本人は,サリンの発散という役割を担い,12名の乗客や駅員を殺害し,また,14名にサリン中毒症の傷害を負わせました(地下鉄サリン事件)。
また,
○ 平成7年5月,他の教団幹部らと共謀して,警察の捜査をかく乱し,松本の逮捕を阻止するため,繁華街の公衆便所内に青酸ガス発生装置を仕掛けて,青酸ガスによりその利用者等を殺害しようと企て,新宿駅の公衆便所に青酸ガスの発生装置を設置しましたが,青酸ガスを発生させるには至りませんでした(新宿青酸ガス事件)。
5 豊田については,平成4年に教団に出家し,機械製造の作業に関与し,教団の科学技術省において,次官として活動していました。
そして,豊田は,
○ 松本の指示の下,他の教団幹部らと共謀して,
・ 平成6年6月下旬頃から平成7年3月頃までの間に,ロシア製自動小銃を模倣した自動小銃約1000丁を製造しようと企て,部品多数を製作するなどし,
・ また,平成7年3月,先に申し上げたとおり,組織的・計画的に地下鉄サリン事件に及ぶなかで,本人は,サリンの発散という役割を担い,12名の乗客や駅員を殺害し,また,14名にサリン中毒症の傷害を負わせました(地下鉄サリン事件)。
○ また,他の教団幹部らと共謀して,
・ 平成7年5月,新宿青酸ガス事件に及び,
・ また,平成7年5月,警察の捜査をかく乱し,松本の逮捕を阻止するため,東京都知事等を殺害しようとして,手製爆発物1個を製造し,これを都知事宛てに送付して,爆発させ,都知事宛ての郵便物の仕分け担当者に傷害を負わせました。
6 廣瀬は,平成元年に教団に出家し,物理学の知識を生かした作業に関与し,科学技術省において,次官として活動していました。
そして,廣瀬は,松本の指示の下,他の教団幹部らと共謀して,
○ 平成6年6月下旬頃から平成7年3月頃までの間に,ロシア製自動小銃を模倣した自動小銃約1000丁を製造しようと企て,部品多数を製作するなどし,平成6年12月頃から平成7年1月までの間に,小銃1丁を製造し,
○ また,平成7年3月,先に申し上げたとおり,組織的・計画的に地下鉄サリン事件に及ぶなかで,本人は,サリンの発散という役割を担い,12名の乗客や駅員を殺害し,また,14名にサリン中毒症の傷害を負わせました(地下鉄サリン事件)。
判決などでも指摘されているところですが,これらの犯行は,松本がオウム真理教を設立して,その勢力を拡大し,更には救済の名の下に日本を支配して自らその王となることまでをも空想して,小銃の製造,サリンの製造といった武装化を進め,そのなかで,その妨げとなるとみなした者は教団の内外を問わずこれを敵対視し,その悪業をこれ以上積ませないようにポアする,すなわち殺害するという身勝手な教義の解釈の下に,その命を奪ってまでも排斥しようとして,殺人,殺人未遂等に及び,さらには,サリンを用いて,二度にわたり不特定多数の者に対する無差別テロにまで及んだものでした。 これらの犯行は,組織的,計画的に敢行されたものであるとともに,過去に例をみない,そして,今後二度と起きてはならない,極めて凶悪・重大なものであり,我が国のみならず諸外国の人々をも極度の恐怖に陥れ,社会を震撼させました。
特に,サリンといった化学兵器までもが用いられ,一般市民を対象とした無差別テロが行われたことは,世界にも衝撃を与えました。
また,弁護士一家殺害事件については,教団に敵対する者であるという理由だけで,何ら落ち度のない弁護士だけでなく,その妻や1歳2カ月の子供までをも殺害したものであり,それ自体残酷極まりないものであるとともに,弁護士一家が突然行方不明になった事件として大々的に報道され,救出活動が展開されたものの,長期間経過後,遺体が発見されたという経緯も含め,社会に大きな衝撃を与えました。
これらの犯行では,数多くの尊い命が奪われ,また,一命はとりとめたものの,多くの方々が傷害を負わされ,中には重篤な傷害を負われた方々もおられました。
これらの犯行によって命を奪われた被害者の方々,その御遺族,また,一命はとりとめたものの,傷害を負わされた被害者の方々,その御家族が受けられた恐怖,苦しみ,悲しみは,想像を絶するものがあります。
そして,いずれの者についても,裁判所における十分な審理を経た上で,最終的に死刑が確定したものです。
本日の死刑執行については,以上のような事実を踏まえ,慎重にも慎重な検討を重ねた上で,執行を命令した次第です。
死刑執行に関する質疑について
【記者】
今回執行された死刑確定者の中に再審請求中の者はいたのでしょうか。
【大臣】
今回死刑が執行された者の中の再審請求中の者ということですが,その事実の有無等について,法務大臣である私からお答えは差し控えさせていただきたいと思います。
【記者】
現在収容中の死刑確定者の人数と,そのうち再審請求中の死刑確定者の人数を教えてください。
【大臣】
本日現在,法務省において把握している死刑確定者は111名ですが,そのうち収容中の死刑確定者は110名です。収容中の死刑確定者のうち,再審請求中の者は87名ですが,死刑確定者全体としては88名です。
【記者】
今月は6日にも死刑の執行がありましたが,これまで同月内に2度の死刑執行をしたことはあったのでしょうか。
【大臣】
平成10年の11月以降に死刑執行の事実及び人数を公表するようになったところです。従いまして平成10年11月以降ということですが,今回を除き,同月内の死刑執行はありませんでした。
【記者】
今回が平成10年11月以降初ということですが,なぜ同月内に2度の死刑執行となったのでしょうか。
【大臣】
ただ今の質問については,個々の死刑執行の判断に関わる事柄ですので,お答えは差し控えさせていただきたいと思います。
【記者】
過去,死刑執行が最も近接していたケースでは何日の間が空いていたのでしょうか。
【大臣】
死刑執行の事実及び人数を公表することになった平成10年11月以降ですが,今回を除いて,最も執行が近接していた死刑執行は,先の執行から47日後です。
【記者】
今回,死刑執行の命令書に押印したのはいつでしょうか。
【大臣】
平成30年7月24日です。
【記者】
今回の大臣在任期間中は13人執行したということですが,前回の在任期間と併せ,通算では16人となりますでしょうか。
【大臣】
私が執行を命令した人数というお尋ねですが,16名ということになります。
【記者】
これで一連のオウム事件での確定死刑者の執行が終わりますが,改めて大臣の御心境をお聞かせください。
【大臣】
申し上げるまでもございませんが,死刑については,人の生命を絶つ,極めて重大な刑罰です。その執行に際しては,慎重の上にも慎重な姿勢で臨む必要があると考えています。同時に,日本は法治国家ですので,確定した判決の執行が厳正に行われなければならないということも言うまでもありません。特に死刑の判決は,極めて凶悪かつ重大な罪を犯した者に対して,裁判所が慎重な審理を尽くした上で言い渡すものです。法務大臣としては,裁判所の判断を尊重しつつ,法の定めるところに従って,慎重かつ厳正に対処すべきものであると考えます。これらの犯行については,先ほど申し上げたとおり,数多くの尊い命が奪われ,また,一命を取り留めたものの,多くの方々が傷害を負われており,中には,重篤な障害を負われた方々もおられます。命を奪われた被害者の方々,その御遺族,また,一命は取り留めたものの傷害を負わされた被害者の方々,その御家族が受けられた恐怖,苦しみ,悲しみは想像を絶するものがあります。本日の死刑執行に当たり,こうしたことを踏まえつつ,「鏡を磨いて,磨いて,磨ききる」と,法務大臣に就任して以来,そのような心構えで事に当たるということを考えてきたわけですが,今回についても,慎重が上にも慎重な検討を重ねた上で死刑執行命令を発したものです。
【記者】
今回,一連の13名を執行したということで,改めて国際社会からも死刑制度に対する批判の声があると思うんですけれど,今後,コングレスといった国際的な行事を控える中で,国際社会に対して死刑制度の必要性,これについてどのように説明されていくのでしょうか。
【大臣】
死刑制度の存廃を巡り,国際機関における議論の状況,また,諸外国における動向等を参考にしつつも,基本的にはこの死刑制度については,各国それぞれの国において,国民の感情,犯罪の情勢,刑事政策の在り方なども踏まえ,独自に決定すべき問題であると考えています。そして,国民世論の多数が,極めて悪質凶悪な犯罪については,死刑もやむを得ないと考えているということであり,多数の者に対する殺人や強盗殺人等の凶悪犯罪が未だ後を絶たない状況等に鑑みると,その罪責が著しく重大な凶悪犯罪を犯した者に対しては,死刑を科することもやむを得ないと考えており,死刑を廃止することについて,現状,適当ではないと考えています。先ほど,2020年に刑事司法分野における国連の最大規模の会議(コングレス)が開催されることの関係で御質問がありましたが,そうした日本においてのスタンスについては,様々なところでその意味や世論の動向等についても,丁寧に説明をしていく必要があろうかと思っています。
【記者】
これまでの死刑の執行について,共犯者のいる事件に関しては,同日に執行するというのが運用としてあったと思いますが,その観点から,前回が7人,今回が6人と別の日になった理由をお聞かせください。
【大臣】
個々の死刑執行の判断に関わる事項ですので,お答えは差し控えさせていただきます。一般論として申し上げると,死刑執行については,個々の事案に関して,関係記録を十分に精査して,刑の執行停止,再審事由の有無等について,慎重に検討し,これらの事由がないことを認めた場合に初めて死刑執行命令を発することとしています。今回もそうした慎重な検討を経て,死刑執行の命令を発したものです。
【記者】
前回の執行の時もお伺いしましたが,今回の13人のうち,多くの人が再審請求中だったと思います。改めて再審請求中の執行について,お考えをお聞かせください。
【大臣】
今回,死刑が執行された者による再審請求の有無については,お答えを差し控えさせていただきます。一般論としてお答えすると,死刑執行に関しては,個々の事案について,関係記録を十分に精査し,刑の執行停止,再審事由の有無等について,慎重に検討し,これらの事由がないと認めた場合に初めて死刑執行命令を発することとしています。再審請求を行っているから執行をしないという考え方はとってはいません。
【記者】
オウムの一連の裁判が1月に終結し,そこから死刑執行を半年以内に行うという法律もありますが,上川大臣はその一連の裁判が終わった段階で,御自身が大臣でいらっしゃる時に死刑執行命令をするものだと考えておられたのでしょうか。
【大臣】
個々の死刑執行の判断に関わる御質問であり,お答えを差し控えさせていただきたいと思います。
【記者】
本月6日の記者会見時に,平成を象徴するような事件について,執行命令書にサインしたことに関する所感を記者から問われた際,様々な時代のことも考えたということを御説明されたのですが,この観点から平成という時代を考えた時に,この事件についてまた改めて一言いただけませんでしょうか。
【大臣】
前回,そのような趣旨のお話をしましたが,死刑執行の判断については,個々の事案に基づき,判断するということですので,お答えについては差し控えさせていただきたいと思います。
【記者】
先ほど大臣は「鏡を磨いて,磨いて,磨ききる」と言われました。その心境についてもう少し詳しく教えてください。
【大臣】
私が平成29年8月3日に法務大臣に再任されたときにも,どのような姿勢で臨むのかという同様の御質問がありました。その御質問に対し,鏡を磨いて,磨いて,磨いて,そしてそこに映し出される1つの真実,こうしたものをどこまで突き詰めることができるのか,そうした心構えを持って法務大臣職を担っていくということを申し上げたところです。
どういう事態,どういう問題,課題,いろいろなことがあろうかと思いますが,基本的な姿勢として,この案件のみならず全てのことにそうした心構えで当たるということを基本としてきたところです。それは今も全く変わらないものとして,そして,これからも変わらない姿勢で臨んでいく所存です。
【記者】
大臣の在任中に16人の執行ということなんですけれども,これは死刑執行を公表するようになって以降,一人の大臣としては最多ということで間違いないでしょうか。
【大臣】
平成10年11月以降の死刑執行命令数ということですが,私の在任中は16名です。
【記者】
公表以降16人ということで,過去最多の命令をされたということについての御所見をお伺いしたのですが,個々の判断というよりも,結果についての御所見ということでお願いします。
【大臣】
個々の死刑執行の判断に関わる事項ですので,お答えについては差し控えさせていただきたいと思います。一般論として申し上げると,死刑については,人の命を絶つ極めて重大な刑罰であることから,その執行に際しては慎重な態度で臨む必要があると考えています。同時に,日本は法治国家ですので,確定した裁判の執行が厳正に行われなければならないということも言うまでもないところです。特に死刑の判決ですが,極めて凶悪かつ重大な罪を犯した者に対して,裁判所が慎重な審議を尽くした上で言い渡すものです。法務大臣として,この裁判所の判断を尊重しつつ,法の定めるところに従い,慎重かつ厳正に対処すべきものと考えています。本日の死刑執行においても,そのような姿勢に則って慎重な検討を加えた上で死刑執行命令を発したものです。
【記者】
結果的にそういう人数になったということでしょうか。
【大臣】
死刑執行に臨む姿勢として,1つずつの事件にしっかりと向き合い,また,慎重な上にも慎重に検討を重ねながら,私の言葉で言いますと,「鏡を磨いて,磨いていく」と,こういう姿勢で1つずつの案件に臨むことが極めて大事だと思っており,そういう姿勢で臨んできました。
【記者】
地下鉄サリン事件の被害者の方の遺族の一部の方から,オウム事件の死刑囚の執行の際には,執行への立会や執行前の死刑囚との面会という要望が法務大臣へ出されたことがあったと思いますが,これについての御対応をお聞かせください。
【大臣】
被害者の御遺族の皆様から,様々な御要請をいただいてきたところですが,今回の被害者の御遺族の皆様の様々なことについては,御遺族等のプライバシーに関わることも含まれるということで,お答えについては差し控えさせていただきたいと思います。
【記者】
上川大臣は被害者支援に厚い大臣だと認識していますが,執行の判断ではなく,そうした事案を検討するに当たって,個人的に感じられたことで,被害者の視点から見た観点から,先ほどの報告で想像を絶するという発言があったと思いますが,お答えいただければと思います。
【大臣】
ただ今の御質問ですが,個々の判断に関わる内容を含んでおり,冒頭で私が申し上げた,今回の死刑執行に際しての御報告,並びにこれまで御質問をいただいた事柄についての答えに尽きるということです。それ以上のことについて,法務大臣である私の個人的な所感という御質問に対しては,お答えを差し控えさせていただきたいと思います。
【記者】
本日は,史上最大の凶悪な事件といわれている「やまゆり園事件」の慰霊の日ともいえる日なのですが,今日を外すということを2日前に頭の中に浮かぶことはなかったのか教えてください。
【大臣】
ただ今の御質問ですが,個々の判断に関わる事柄ですので,答弁については差し控えさせていただきたいと思います。