平成30年12月27日(木)法務大臣臨時記者会見の概要
本日,旧姓河村こと岡本啓三,末森博也の2名の死刑を執行しました。 この2名に関する犯罪事実の概要等については,お配りした資料のとおりです。概略を申し上げると,本件は,投資顧問会社の社長から,現金1億円余りを強取した上,犯跡を隠蔽するため,同社長及び同社従業員の2名を殺害し,両名の死体をコンクリート詰めにして,山中に遺棄するなどしたほか,証券会社従業員から約1億4,000万円相当の株券を詐取し,更に,拳銃及び実包を所持したという,強盗殺人,死体遺棄,詐欺,銃砲刀剣類所持等取締法違反及び火薬類取締法違反の事件です。
本件は,誠に身勝手な理由から,被害者の尊い生命を奪うなどした,極めて残忍な事案です。拉致され,順次絞殺されただけではなく,コンクリート詰めにされて山中に遺棄された被害者の方々はもちろん,御遺族の方にとっても無念この上ない事件だと思います。極めて凶悪な犯行であり,社会を震撼させるものでした。
当然のことながら,これらの事件は裁判において十分な上にも十分な審理を経た上で,最終的に死刑判決が確定したものです。我が国が法治国家である以上,確定した司法判断については,その執行を妨げる事由がない限りは,厳正に執行されなければなりません。他方で,死刑が人の生命を奪う峻厳な刑罰である以上,その執行に際しては,刑の執行停止,再審事由の有無など,刑の執行を妨げる事由がないこと等について,慎重な上にも慎重な検討が必要になります。
法務大臣として,そのような法の峻厳さと正面から向き合い,慎重な上にも慎重な検討を加えた上で,死刑の執行を命令した次第です。
死刑執行に関する質疑について
【記者】
執行した2人を選んだ理由と,この時期に執行した理由についてお聞かせください。
【大臣】
個々の死刑執行の判断に関わる事項については,お答えを差し控えさせていただきます。ただ,一般論として申し上げれば,死刑に際しては,個々の事案について,関係記録を十分に精査し,刑の執行停止,再審事由の有無などについて慎重の上にも慎重に検討し,これらの事由がないと認めた場合に初めて,死刑執行命令を発することとしています。今回も同様に慎重な検討を経て,死刑執行命令を発したものです。
【記者】
現時点での,袴田死刑囚を含む確定死刑囚の人数と,そのうち再審請求中の人数を教えてください。
【大臣】
本日現在で法務省において把握している死刑判決確定者は,110名です。そして同様に法務省において本日現在で把握している再審請求中の者は86名です。
【記者】
執行の命令書に署名をした日にちについて教えてください。
【大臣】
平成30年12月25日です。
【記者】
年末という時期に死刑を執行するというのは,かなりまれなのではないかと思うのですが,この点についてどのように判断されたのかというところをお聞きしたいと思います。
【大臣】
まず,個別の死刑の執行についての判断については,お答えを差し控えさせていただきたいと考えています。その上で,一般論ですが,これも先ほど申し上げたとおり,死刑執行に際しては,個々の事案について,関係記録を十分に精査し,刑の執行停止や再審事由の有無等について慎重に検討し,これらの事由等がないと認められた場合に初めて,死刑執行命令を発することとしており,今回も同様の慎重な検討を経て,死刑執行命令を発したというところです。
【記者】
今年,オウム真理教の事件関連で13人という大量の死刑執行があり,その執行から約5か月くらい空いていると思いますが,執行がされたということで,1年で15人執行されたということですから,死刑制度の存廃を巡る議論への影響についてどのようにお考えかお願いします。
【大臣】
前回の執行から5か月後の執行の判断に至った考えについて,個別の刑の執行についての判断についてはお答えできないということは先ほどお答えしたとおりであり,また一般論としても先ほどお答えしたとおりです。
そして,死刑存廃に関する所見について,これは我が国の刑事司法の根幹に関わる重要な問題です。これについては国民世論に十分配慮しつつ,社会における正義の実現等,種々の観点から慎重に検討すべき問題です。そして,国民世論の極めて多数が,極めて悪質・凶悪な犯罪については,死刑制度の存置もやむを得ないと考えています。
多数の者に対する殺人や強盗殺人等の凶悪犯罪が未だ後を絶たない状況に鑑みると,その罪責が著しく重大な凶悪犯罪を実行した者に対しては,死刑を科することもやむを得ないと考えており,死刑を廃止することは適当でないと私は考えています。
【記者】
来年は新天皇の即位など様々な皇室行事が予定されていますが,そういった行事への影響というのも考えてこの時期にされたのかどうかお聞かせください。
【大臣】
死刑は人の生命を絶つ極めて重大な刑罰です。これについては先ほども申し上げたとおり,一つ一つの個別の事案について,刑の執行を妨げる事由があるかどうか,すなわち再審事由の有無であるとか,あるいは刑の執行停止事由の有無であるとか,そういったことを一つ一つの事件を慎重に調査して判断しています。スケジュール感や今後の影響といったもので判断するものはないということです。
【記者】
大臣が検事時代に死刑事件の捜査や起案などに関わったことがあるかどうか教えてください。
【大臣】
私が検察官時代に携わった個別の事件についてのお答えは差し控えるべきであると考えています。
【記者】
今年死刑が執行された合計人数と,この人数が戦後最多と言えるかどうか,お伺いします。
【大臣】
今年の死刑の執行された人数については,今回も含めて合計15名です。1年ということであれば,今日現在で最多です。執行について公表し始めたのが平成10年の11月以降で,把握しているところでは最多となります。
【記者】
岡本死刑囚,末森死刑囚は再審請求中だったかどうか,把握されていますか。
【大臣】
今回死刑が執行された者による再審請求の有無等について,法務大臣である私からお答えすることは差し控えたいと考えています。
【記者】
岡本死刑囚については,再審請求中であったという話も耳にしていますが,大臣はこの再審中の有無について慎重に検討したということですが,再審請求中であったとしても死刑執行の妨げにはならないというお考えでしょうか。
【大臣】
今回,死刑が執行された者による再審請求の有無等については,法務大臣である私からお答えすることは差し控えさせていただきます。その上で一般論として申し上げれば,再審請求に関しては,再審請求を行っているから執行しないとの考え方はとっていないということです。
再審請求は,刑事訴訟法上,それ自体が死刑の執行停止の事由には当たらず,そして,死刑執行に関しては,個々の事案について,関係記録を十分に精査し,刑の執行停止,再審事由の有無等について慎重の上にも慎重に検討しています。これらの事由がないと認められた場合に初めて,死刑の執行命令を発することにしています。
【記者】
法務省としては,2020年にコングレスを控える中で,大臣はいわゆる司法外交の推進に力を入れていくと御所見を述べられていると思いますが,死刑を廃止しているヨーロッパの国々に対して向き合う中で,こういった死刑執行を続けていることを大臣はどのようにお考えでしょうか。
【大臣】
死刑制度の存廃については,国際機関における議論の状況や,諸外国における動向等,様々な議論があり得ると思います。そういった動向も参考にしつつも,基本的には各国において,国民感情,犯罪情勢や刑事政策の在り方等を踏まえて,独自に決定すべき問題であると考えています。そして,先ほど申し上げたように,国民世論の多数が,極めて悪質・凶悪な犯罪については死刑もやむを得ないと考えており,多数の者に対する殺人や強盗殺人等の凶悪犯罪が残念ながら未だ後を絶たない今の状況に鑑みると,その罪責が著しく重大な凶悪犯罪を実行した者に対しては,死刑を科すこともやむを得ないと考えており,死刑を廃止することは適当ではないと考えています。したがって,そのような立場をお伝えすることになると思います。
【記者】
今年の執行人数が公表して以来最多となったというところですが,最多となった数字について,大臣の御認識,受け止め等があればお聞かせください。
【大臣】
死刑執行については,先ほども申し上げたように一つ一つの事件について,その時々の法務大臣が刑の執行を妨げる事由がないか,再審事由の有無等について,本当に慎重の上にも慎重に検討して,やむを得ないという決断を下したものであると考えています。ですから「数」という統計的なものではなく,そのことを是非御理解いただきたいと思っています。
【記者】
大臣が検察官出身ということで,法曹の専門家というところから,大臣を経て執行されたということで,重大な決定に変わりはないですが,そういった御経験を踏まえてどのように感じているかということを改めてお聞かせください。
【大臣】
今回の判断がどうかということではなく,やはり死刑あるいはそれに相当する事案について,その中で命を絶たれた被害者の方もおられるでしょう。そして,この人の生命を奪うという刑罰の重さ,そういったものに対する法の峻厳さだと思います。歴代大臣も私も正面から向き合って,厳しい判断を下したということだろうと考えています。
【記者】
先ほど,今年の死刑執行者数15人というのが最多というお話がありましたけれども,これは単独最多という理解でよろしいのでしょうか。それとも並ぶ年があるのでしょうか。
【大臣】
平成20年にも15名ということがありました。ですから単独ということではなく,2回目ということになります。
【記者】
現在,日産自動車のカルロス・ゴーン元会長が逮捕,勾留されている事件で,長期勾留という批判が海外を中心に高まっており,日本の刑事司法に注目が集まっている状況だと思います。その中で,こちらも以前から批判が高まっている死刑を執行するということは,ある意味,強いメッセージ性というか,日本は死刑を存置しているんだという意味合いを強調する側面もあるんじゃないかという気もしますけれども,そのような受け止めでよろしいのでしょうか。
【大臣】
死刑については,我が国の刑事司法制度の根幹に関わる重要な問題です。国民世論に十分配慮しつつ,社会における正義の実現等種々の観点から,慎重に検討すべき問題だということや,個々の勾留手続,これは一つ一つの事件について司法判断を経て,勾留がなされるわけです。刑事手続自体については,様々な国において様々な違いがあります。そうしたことをしっかりと伝えていくことになるだろうと考えています。