内閣府では基本的法制度に関する世論調査の一環として、死刑に関する世論調査を行っています。直近では2019年に行われ、2024年にも行われるとされています。
この世論調査については、その調査方法のみならず、その結果を政府や法務大臣が死刑制度存続の理由のひとつとして挙げていることについて、多方面から問題点が指摘されています。
内閣府による基本的法制度に関する世論調査
令和元年11月(2019年)基本的法制度に関する世論調査
平成26年11月(2014年)基本的法制度に関する世論調査
平成21年12月(2009年)基本的法制度に関する世論調査
平成16年12月(2004年)基本的法制度に関する世論調査
平成11年 9月(1999年)基本的法制度に関する世論調査
平成 6年 9月(1994年)基本的法制度に関する世論調査
平成元年 6月(1989年)犯罪と処罰に関する世論調査
昭和55年 6月(1980年)犯罪と処罰等(死刑制度・性の表現・覚せい剤)に関する世論調査
昭和50年 5月(1975年)犯罪と処罰等に関する世論調査
昭和42年 6月(1967年)死刑に関する世論調査
昭和31年 4月(1956年)死刑問題に関する世論調査
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「世論という神話 日本はなぜ、死刑を存置するのか」(佐藤 舞&ポール・ベーコン)
内閣府による死刑に関する世論調査をより深く分析した報告書です。 この報告書では、多くの国民の死刑に対する意見は限定的な情報に基づいており、しばしば誤った認識(例えば犯罪率が増加しているという誤解)に基づいていることを、政府の世論調査と同様の方法論と調査対象の選定方法による意識調査を用いることで明らかにしています。また、死刑制度の将来に関する国民の「心理的当事者意識」が比較的低いことを明らかにしており、国民の大多数は死刑制度の将来は政府と専門家が決めるべきだと考えていることも明白にしています。さらに、審議型意識調査への参加者は、自分と異なる意見に対する寛容性を増加させ、結果的に潜在的な意見の訂正や変更を容易にする実態も報告されています。
報告書の概要を動画で見る
報告書の内容を凝縮したインフォグラフィックス
ドキュメンタリー映画「望むのは死刑ですか 考え悩む”世論”」
- 「世論という神話」のうち、「審議型意識調査」の実際の模様がドキュメンタリー映画「望むのは死刑ですか 考え悩む”世論”」に収録されました。135名の参加者が、2日間、日本の死刑制度について学び、審議・意見交換をすることで、死刑に対する態度がどのように変化するのか。さらに、この調査参加後の意識の変化にも迫ります。
教育機関や、各種団体、グループ等で、インターネット経由により無料で視聴することができます。詳しくはこちらから。
死刑に関する世論調査に対する日本弁護士連合会の意見書
死刑制度に関する政府世論調査に対する意見書 2024年1月19日
2018年の意見書と同様、質問を追加すること、2019年の世論調査における回答回収率は従来を一層下回る52.4%となっており、世論調査の結果を国民の意見として扱うことはできないことを指摘しています。また、政府は、世論調査結果の公表・利用の際、死刑制度に関する世論調査の目的が、「死刑制度に対する賛否」の国民意識の把握ではなく、「制度としての死刑を全面的に廃止すべきであるか否か」についての国民意識の把握であること、及び、その結果として、主質問の選択肢(二択)の「死刑は廃止すべきである」に対置する選択肢が「死刑は残すべきである」ではなく、将来の死刑廃止を容認する立場をも包摂する「死刑もやむを得ない」という選択肢になっていること、「死刑もやむを得ない」という回答をする者の中に、将来の死刑廃止を容認する者を含むことを明確に説明すべきであると主張しています。
死刑制度に関する政府世論調査に対する意見書 2018年6月14日
2013年の意見書と同様、回答選択肢を改めること、世論調査の結果を国民の意見として一般化すべきではないことを指摘しています。さらに、追加すべき質問として、死刑廃止を可能にするための条件又は手続に関する質問、死刑制度関連情報の認知度に関する質問を挙げています。また、政府が世論調査結果を公表する際には、少なくとも死刑制度に関する主質問の回答割合に続いて将来の死刑制度存廃に関する回答割合を明示するなどし、世論調査の結果が誤解されることのないよう十分に配慮すべきであるとも意見しています。
死刑制度に関する政府の世論調査に対する意見書 2013年11月22日
死刑制度に関する主質問の内容自体が死刑存続側に回答を誘導するような選択肢が用いられているのを改めること、死刑の代替刑としての終身刑(仮釈放のない無期懲役刑)の導入による影響を把握するための質問を加えるべきであることなどを指摘しています。また、回答の回収率が性・年齢層・地域別で大きな差異があり、世論調査の結果を国民の意見として一般化すべきではないことも指摘。さらに、調査の結果の評価に当たってはサブクエスチョンの回答内容をも総合的に分析する必要があり、将来的にも死刑制度を支持する回答者の割合は、サブクエスチョンの回答も加味して、約56%と評価すべきであると意見しています。
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世論調査の結果を死刑制度存続の根拠とすることに対する指摘
「日本の死刑制度について考える懇話会」
「日本の死刑制度について考える懇話会」は、国民各界及び各層の参加を得て、十分な情報をもとに活発な議論を行い、日本の死刑制度のあるべき方向性について提言することを目的として、2024年2月に設立されました。与野党の国会議員や犯罪被害者遺族、元検事総長らが参加し、日本弁護士連合会が事務局を務めました。合計12回の会議を通して専門家や犯罪被害者遺族らから報告を受け、同年11月13日に報告書をとりまとめました。
その報告書には、「世論調査において国民の多くが死刑制度の存置をやむを得ないと答えているとしても、それらのことは、死刑制度を何らの改革・改善も行わず、現在のような形のまま存続させることの理由となるものではない」という指摘があります。
「日本の死刑制度について考える懇話会」ホームページ: https://www.shikeikonwakai.net/
第二東京弁護士会 シンポジウム「映画を観て考える『死刑廃止と世論』」2022年3月11日
死刑廃止と世論に関して、前半の基調講演の講師は本庄武一橋大学法学研究科教授、後半の審議型意識調査に関するコメントは佐藤舞が担当しています。いずれもYouTubeにて講演の模様が公開されています。
第二東京弁護士会 イベントレポート シンポジウム「映画を観て考える『死刑廃止と世論』」
日本弁護士会 シンポジウム「死刑廃止の実現を考える日2023」(2023年11月14日開催)
日本弁護士会のシンポジウム「死刑廃止の実現を考える日2023」(2023年11月14日開催)において、ジュリア・ロングボトム駐日英国大使が、日本政府が世論調査を死刑制度存続の根拠のひとつとしていることについて、以下のような発言をしています。
「1969 年、英国は死刑執行の停止を恒久化し、殺人罪で死刑の適用を廃止しました。英国の事例は、死刑廃止を実現する上で二つの教訓を示しています。一つ目が、政治のリーダーシップの重要性です。具体的には国民を正しい方向へ導くという政治家の強い意志と行動です。死刑が廃止された 1960 年代当時、死刑を支持する世論の割合は70%台を記録していました。現在は、40%にまで上がっていますが、世論の死刑支持が 50%を切ったのはほんの9年前の 2014 年でした。英国では、政治の決断として死刑を廃止され、廃止後に政治が世論を導いていきました。 日本は、国民世論の8割の支持を受け、死刑制度は維持されているようですが、世論は新しい情報や事実に触れると変化します。また、世論の支持があることを理由に、死刑で個人の権利が奪われてよいのでしょうか。重要なことは、まずは政治がリードして、様々な情報を精査したり、提供して、幅広い議論を喚起することです。」
(反訳p5-6)
東京新聞 2024年3月4日「死刑制度は本当に「やむを得ない」のか 続けるリスクを考える 55年前に廃止したイギリスから学べること」
英NGO「死刑プロジェクト」の共同設立者ソール・レーフロインドさんへのインタビューが掲載されています。 「日本でも国会が廃止を決めれば世論は受け入れる」「日本政府は調査をやめるべきだ。死刑存置の言い訳として、世論調査を続けている印象があるが、存置を正当化できない」などの発言が紹介されています。
全文はこちら(東京新聞2024年3月4日12:00 「死刑制度は本当に「やむを得ない」のか 続けるリスクを考える 55年前に廃止したイギリスから学べること」)。
法務大臣記者会見にみる死刑に関する世論または世論調査(2013年~)
令和 6年11月15日(金)鈴木馨祐法務大臣
令和 5年 9月13日(火)小泉龍司法務大臣
令和 4年11月11日(金)齋藤健法務大臣
令和 3年10月 5日(火)古川禎久法務大臣
令和 2年 9月17日(木)上川陽子法務大臣
令和 2年 1月24日(金)森まさこ法務大臣 令和元年11月(2019年)実施の世論調査の結果について。
令和 元年12月20日(金)森まさこ法務大臣
令和 元年 9月11日(水)河井克行法務大臣
平成30年10月 2日(火)山下貴司法務大臣
平成30年 7月27日(金)上川陽子法務大臣
平成27年10月 7日(水)岩城光英法務大臣
平成27年 1月27日(火)上川陽子法務大臣 平成26年11月(2014年)実施の世論調査の結果について。
国会にみる死刑に関する世論または世論調査(2013年~)
第213回国会 衆議院 法務委員会 第4号 令和6年3月26日
第212回国会 参議院 外交防衛委員会 第2号 令和5年11月9日
第211回国会 衆議院 決算行政監視委員会第四分科会 第1号 令和5年4月24日
第211回国会 衆議院 予算委員会 第7号 令和5年2月6日
第210回国会 参議院 法務委員会 第7号 令和4年11月17日
第210回国会 衆議院 法務委員会 第9号 令和4年11月16日
第210回国会 参議院 外交防衛委員会 第3号 令和4年11月1日
第208回国会 衆議院 法務委員会 第2号 令和4年3月1日
第204回国会 参議院 法務委員会 第2号 令和3年3月16日
第204回国会 衆議院 外務委員会 第2号 令和3年3月10日
第203回国会 衆議院 外務委員会 第3号 令和2年11月18日
第200回国会 参議院 法務委員会 第3号 令和元年11月12日
第200回国会 衆議院 法務委員会 第2号 令和元年10月23日
第198回国会 衆議院 法務委員会 第16号 令和元年5月15日
第198回国会 衆議院 法務委員会 第14号 令和元年5月8日
第198回国会 参議院 法務委員会 第4号 平成31年3月20日
第198回国会 衆議院 法務委員会 第2号 平成31年3月8日
第192回国会 衆議院 法務委員会 第2号 平成28年10月19日
第190回国会 衆議院 法務委員会 第3号 平成28年3月9日
第189回国会 衆議院 法務委員会 第41号 平成27年12月4日
第189回国会 衆議院 法務委員会 第38号 平成27年8月28日
第186回国会 衆議院 法務委員会 第6号 平成26年3月25日
第186回国会 衆議院 法務委員会 第4号 平成26年3月14日
第183回国会 衆議院 法務委員会 第2号 平成25年3月15日
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法務省の検討会
死刑制度に関する世論調査についての検討会(平成26年8月28日)
従来の調査より明瞭な回答を得るために、選択肢の表現を検討し、調査票案を提案した。さらに、新しい調査票案を用いてプリテストを行い、結果を分析している。 出典:法務省
死刑制度に関する世論調査についての検討会(令和元年9月12日)
死刑制度に関する世論調査を実施するに当たって、適切な質問の在り方等について専門的な見地から検討することを目的とし、前回世論調査における質問・回答選択肢の修正の要否・当否、新たな質問の追加の要否・当否について検討された。 出典:法務省
自由権規約委員会による日本政府報告書審査
第7回審査 自由権規約委員会の事前質問(LoIPR)に対する日本政府回答
日本政府は、海外に対して死刑制度存続の正当性を主張する際、その根拠のひとつに国民世論の多数が死刑を支持していることを挙げています。 その一例として、自由権規約委員会による日本政府報告書審査の第7回審査、自由権規約委員会の事前質問(LoIPR)に対する日本政府回答があります。
自由権規約委員会による日本政府報告書審査 自由権規約委員会の事前質問(LoIPR)に対する日本政府回答(日本政府仮訳)
問11 前回の総括所見(パラ13)及び締約国のフォローアップ情報に対する委員会の評価(CCPR/C/116/2 及び CCPR/C/120/2 参照)に関し,以下につき対応願いたい: (a)死刑廃止及び本規約第二選択議定書の加入に向けて何らかの措置が取られたか,或いは,取られる予定があるか説明されたい。死刑が廃止されるまでの間,本規約第6条(2)で定められたとおり,死刑を最も重大な犯罪(すなわち,故意による殺人を含む極めて重大な犯罪)に限定することを確保するために措置が取られているかにつき説明願いたい。
(答)
67 死刑制度の存廃は,基本的には,各国において,国民世論に十分配慮しつつ,社会における正義の実現等種々の観点から慎重に検討し,独自に決定すべき問題である。我が国では,国民世論の多数が極めて悪質・重大な犯罪については死刑もやむを得ないと考えていることや多数の者に対する殺人や強盗殺人等の凶悪犯罪がいまだ後を絶たない状況等に鑑みると,その罪責が著しく重大な凶悪犯罪を犯した者に対しては,死刑を科することもやむを得ないのであり,死刑を廃止することは適当でないと考えられる。
死刑の在り方については,我が国の刑事司法制度の根幹にかかわる問題であり,国民の間で幅広い観点からの議論が行われることが望ましいと考えている。
なお,我が国では,死刑が科され得る犯罪は,故意の殺人等の極めて重大な犯罪のみに限定されている。
68 パラ67の理由から,本規約の第二選択議定書の締結についても,慎重な検討が必要である。